穢翼のユースティア (August)



総合:90    シナリオ:9 キャラ:9 音楽:9 絵:10 システム:10  お気に入り:
リシア・ド・ノーヴァス・ユーリィ




神に祝福されし聖なる方舟、浮遊都市ノーヴァス・アイテル

その最下層、牢獄にはありとあらゆる不条理に満ちていた。

理不尽な不幸の中、牢獄で必死に生きてきたカイムは、希望のある未来を信じる少女、ティアと出会う。


彼女の信じる運命がどのようなものであるのか、この時二人は知る由も無かった…。






オーガストの実質8作目となる作品です。
今までとはガラッと作風が変わって、かなりダークな感じになってます。

8月といえばいわゆる萌えゲーメーカーで、べっかん絵はいいけどシナリオが弱くて、
プリホリ、はにはにに見られた超展開や夜明けな、FAのように月の姫様や吸血鬼が出ても結局普通の学園ものじゃん、などと考えている方が多いと思います。


ですがユースティアプレイ後にはその印象をもう完全に崩れてしまいましたね…。


まぁ何が言いたいのかというと・・・こいつは今までのオーガストとは違うぜ!




シナリオ:9


オーガストが放つ、本格的ファンタジー。

プレイ開始直後から血なまぐさいシーンがあり、その後も娼館やスラムを象徴として牢獄での生活の過酷さ、悲惨さを非常にうまく描写されています。

そして牢獄やノーヴァスアイテルについてプレイヤーがある程度理解したところで流れる幻想的なOP…。

本作のような既存の世界観に依らないファンタジーものでは、最初にいかにプレイヤーをその世界に没入させるかが大事だと思うのですが、この`つかみ`に関しては完璧だと思います。

ホームページの世界観設定の項を見ればわかりますが、非常に緻密な設定がなされており、それらがちゃんと物語中で生かされているのもユースティアの世界観を深めるのに一役買っています



ストーリーはG線上の魔王と同じく、本筋となるメインのストーリーがあって、そこから各ヒロインの話に分岐していきます。(勝手にG線形式とかって呼んでます)
各ヒロインごとに1章が割り当てられており、そのヒロイン√に進まなければ次の章へ・・・って感じです。

このG線形式が本作では見事にマッチしていた、というよりもこの形式以外あり得ないと思います。

ここですごいのは、各章ごとにヒロインに深くかかわる問題(山場)があり、そのどれもが「どうやって切り抜けていくんだろう・・・」と先が気になって仕方無い程の出来で、思わずどんどん読み進めてしまう事ですね。

カイムやヒロインたちの状況は結構重く危ういため、これは誰か死んでしまうのでは・・・?と真剣に思った場面もありました。

章を進めるごとに段々明らかになっていくノーヴァスアイテルやグランフォルテの秘密…。
今まで常識だと信じて疑わなかった事実の崩壊。

そして最初は不食金鎖の用心棒でしかなかった主人公が聖女と会うようになったり、果ては国王の側近として逆賊の討伐に参加したりと、後半に行くにしたがって話の規模が段々大きくなっていき、まるで主人公が出世していってるようで読んでてワクワクさせられます

またヒロインが自身のシナリオで活躍するのは当然ですが、その後にもちゃんと見せ場があるのはgood。
むしろ主人公と結ばれなかった時の方が彼女たちの成長が見て取れて、そっちの方が良かったんじゃないかとまで思ったり(笑)


ただG線方式にした弊害もあります。

それは個別ルートが短すぎる点
確かにヒロインの章自体が個別ルートみたいなもので、もう一山用意するのは難しいのはわかりますが、それでもあまりに短い。
そのせいでヒロインと結ばれた後のラブイチャ描写が少ないのがすごく不満です。


ただそこはユーザーフレンドリーに定評のあるオーガスト、抜かりはありません。

ファンディスクで出してもいいぐらいのえちぃシーンがおまけで収録されています。やったね!
まぁ、それでもやはり物足りないのですがorz


あと8月らしく、視点変更(Another View)が多用されます。
これが多用されると物語の流れが阻害されがちですが、今作では情報や伏線の出し方が非常にうまく、変更回数が多かった割には全然違和感なくすすめられました。

また過去作品でも何かとあった戦闘シーンですが、今作は結構本格的です。
エフェクトと相まってかなり緊張感のある場面になってます。


ちなみに牢獄をはじめダークさが強調されがちですが、物語自体は意外にファンタジーの王道みたいな感じになってます。
メインとなる人が死にまくることもなく、場面的に凌辱シーンに突入するかと思いきやそんなこともなく・・・。

そこはブランドイメージとして譲れない一線だったんでしょう。むしろそういった制約を抱えながらあれだけのシナリオを描き上げたのは逆にすごいと思います。
というわけで今までの8月信者の方でもある程度安心して楽しめるかと。


全体を通してのテーマは「生きている意味」。
死と隣り合わせの世界で、主人公たちをはじめ日々を懸命に生きている人々の姿が描かれるので妙に説得感があります。

またテキスト自体も驚くほど丁寧で、味のあるセリフもかなり多かったです。

プレイ時間は全部で35時間ぐらい。
各章は尺自体それほど長くなく若干短いぐらいですが、その分テンポ良く進められるのでよかったと思います。


ここまで怖いくらいべた褒めですが、不満点を上げるとすれば間違いなく最終章とEDですね。

具体的にはティアの項にて・・・

ところで点数自体は9点ですが、これは[あのオーガスト]が書いたから、というのが少なからずありますw



キャラ:9



ユースティアのキャラクターたちなんですが、実を言うとプレイしていて一人一回はうっとおしく思いました。(ぇ
あからさまな悪役はもちろん、ヒロインたちもです。こんなゲームは今までになかったで…。

何が原因かというと、皆主人公の言う事を中々聞き入れなかったり、勝手な行動をとったりするんですね…。

プレイしているときはそれだけ話にのめりこんでるから余計にウザかったり面倒くさく感じるのだけど、多分これは各キャラが自身のしっかりとした信念を持っていてそれに従って行動しているんですね。
こういった人間間の衝突が、ある意味リアリティがあってキャラクターに血が通っているように感じさせる一因になってます。

そう考えると、どのキャラもしっかりとしたキャラ付けがされていてそれがほぼブレない、と言ってもいいと思いますがこれはシナリオゲーとしては素晴らしいことですよね!




フィオネ・シルヴァリア

防疫局、通称羽狩りの女隊長。

融通の利かない堅物ではじめは牢獄にも否定的ですが、主人公カイムらと行動を共にする中でどんどん変わっていきます。

特に洋服を買いに行ったりして、徐々に普段と違う一面が見えてくる辺りから一気に可愛くなります

頭を撫でてあげるCGは場面も合わせてかなりお気に入り。




エリス・フローラリア

カイムに身受けされた医者。本業はカイムの嫁。

物怖じしない性格でジークにすら死ねと言えるすさまじい毒舌家。一度でいいから死ねばいいのにとか罵られたい

カイムへの依存がひどく、本編ではなかなかの病みっぷりを見せつけてくれます。
病みモードに入る前の、不器用ながらもカイムに甘えようとする姿はかなり可愛いです。

他のヒロインがカイムに近寄った時に邪険にして追い払おうとするのがいいですねw

ちなみに何気に最初に出会うヒロインです。

シナリオはカイムが若干迷走気味だったり、ジークが秘策を教えてくれなかったりでフラストレーションがたまります。
カイムがエリスの求めになかなか応じない理由の重さには驚きました。

しがらみのなくなった個別ルートでのラブラブっぷりももちろん、依存を許さずに先に進んでいったときに見られる自立した彼女の姿がすごく印象的です。
おまけのメガネオンオフシステムはほかのメーカーも取り入れるべきだと思うんだ





聖女イレーヌ

都市を浮かせるため祈りをささげているという第29代聖女イレーヌ。

作中屈指の頑固者で、負けず嫌い。何かとラヴィと張り合ったり、チェスの勝負に勝てるまで挑んできたりと子供っぽい一面も持っています。

雲の上の存在である聖女という肩書や可憐な印象と、実際に接した時のギャップがすごいです。萌えます

こちらを蔑むような立ち絵は間違いなく最高の出来!

ただ聖女様と恋仲になる、というような背徳感がイマイチなかったのは残念です。

ラストシーンはこのまま終わるのか…、と信じて疑いませんでした。
あとティア√では予想外の活躍を見せます。

ところで盲目設定って何か意味があったんですかね…?





ラヴィリア

聖女イレーヌの付き人。
序盤からさりげなく登場し、世間知らずっぷりを見せつけます。

イレーヌの事を本当に大事に思っていて、見ていてとても健気な娘です。

CVの桐谷華さんもまだ新人さんらしいのですが、とても声が可愛らしいです。要チェックですな。

しかしまさか彼女にも個別√3Pがあるなんてびっくりしました。
そのあたりは流石オーガスト、よくわかってらっしゃるw





リシア・ド・ノーヴァス・ユーリィ

ノーヴァス王家第一王女。
間違いなく今作で一番人間的に大きく成長するのはこのリシアでしょう。

4章まで全くと言っていいほど出番がなく、どんなキャラか全くわからなかったんですが、出会いのシーンからツボりました。

あの服似合いすぎだろおおおおぉぉぉぉぉぉーーー!!!

そもそも金髪ツインテという外見はもちろん、自身の力不足を自覚し素直にカイムに頼ってくるのがいいですね。。

最初はお転婆で着替えを見られても全く気にしてなかったのに、ちょっとずつ意識しだして恥ずかしがるようになったりするのも可愛い。


世間知らずだったリシアがカイムと話し行動を共にするうちに成長し、国王にふさわしい人間に成長していく姿が、まるで自分の娘が立派に育っていくのを見つめているかのようで感慨深いです。
ヴァリアスとの対話シーンなんてその最たるものですね。
まぁ最後は美味しく頂いちゃうんですががが


最後の戴冠のシーンは思わず泣きそうになりました。ユースティア屈指の名場面だと思います。







ユースティア・アストレア

背中に羽が生える病 “羽化病” に冒された少女。ひょんなことから主人公と一緒に暮らすことになります。


牢獄民には信じられないような明るい性格で、主人公からは「脳みそにヒマワリが群生している」などと揶揄される。

全体的に暗い雰囲気が漂う作中では彼女の能天気さには本当に癒されます
ティアがいたから暗くなり過ぎなかった、と言っても過言じゃないかも。

エリス先生曰く、小動物。
確かに誰にでも人懐っこく、犬っぽいのであながち間違いじゃないですw

CVの森保しほさんですが、とても可愛らしい声がティアにピッタリでした。
今まで数キャラしか知らない方だったんですが、一気にお気に入りになりましたね。

タイトルにその名を冠するように、メインヒロインで大トリを務めます。

シナリオとしてはまるでラノベのような王道展開なのですが、しかし…



ということで以下ネタバレにつき反転

正直言うと、オーガスト作品でハッピーエンド以外を目にするとは思ってもいませんでした。そこも`譲れない一線`だと思ってたし。
まぁ超展開で無理やりハッピーエンドにしてたらご都合主義って言われるだけかな

状況を考えると終わり方としてはあれ以外になかった(ティアはカイムを救うという自分の選択を貫いた)と思ってるし、寧ろ寂寥感もあって嫌いじゃないEDだったんですが、如何せんそこに辿りつくまでの過程がよろしくない。。

直前の章まで人生の先輩として(エリスの時のように失敗こそすれ)ヒロインたちを導いてきた超人カイムさんはどこへやら、ヘタレるにしてもあれはさすがにやり過ぎだろ・・・

もちろんシナリオ的にティアか都市かの葛藤は必要だったと思うんだけど、今までの優等生な主人公とのギャップのせいで違和感が大きかった気がした。

ただそれでもあれだけの葛藤を重ねてきた挙句、結局ティアを選んだカイムにとってティアがいない世界というのは余りにつらいものなんじゃないだろうか。
酒や薬におぼれて楽園幻想を見続けるような状態にならないことを祈ってます。


そしてもう一つ、ルキウス(アイム)を完全に悪役にしてしまえなかったのも展開上まずかった気がする。

ティアをひどい目に合わせるだけで飽き足らず、最終決戦直前にCGでこそ血はなかったけどティアを何度も突き刺して研究者に狂人とまで呼ばれていたのに、最後はカイムを助ける。
もちろん彼の目的は都市の救出であって、その理念のもとに動いていたんだから天使としての覚醒を促していたのはわかるけど、カイムを助ける行為はその理念に反しているんじゃないだろうか?

それに結局兄の背中を追い続けてきたカイムは一生追い越すことはできなかったことになるんですね。しかも考えてみたら彼の望みどおりの結末になってるしw
これが胸の中でもやもやする一因になっているのは間違いない。。

善にも悪にもなりきれない中途半端な姿でなく、最終決戦で福音を飲んで黒羽化するとか、最後までわかりやすい悪でいた方が盛り上がった気がします。

もしくはジークとの共闘とか、FAみたく真√みたいな感じでもう少し選択肢があってもよかった気がします。

ネタバレここまで








ジーク、メルト、ルキウス、システィナ、三人娘、ギルバルト、ヴァリアス、ガウ他……

ユースティアを語る上で欠かせないのがいわゆるサブキャラたち。
牢獄のリーダー格、ジークをはじめ魅力的なキャラクターが非常に多いです。

ただ、本編では自分の命がかかっている環境において誰が敵で誰が味方なのか分からない中での駆け引きが醍醐味だと思うので、敢えて多くは語りません。

かなり熱いシーンも多く、危うく漢に泣かされるところでしたw


欲を言うならジークやオズ達との共闘シーンや、クールロリ枠のアイリスにもっと頑張ってほしかった(何





主人公:8


カイム・アストレア

何この人すごい…。

戦闘はかなり強いし、精神的にも成熟して大人だし、機転は効くし、男娼にされるくらいイケメンだし、否童貞だし。。
何をさせてもパーフェクトなチート級能力を持つ牢獄の何でも屋です。

一見完璧超人な彼の最大の欠点といえばやはり某ルートで見事にヘタレることでしょう。

必要なプロセスであることは理解できるのですが、見ていてものすごくイライラします。

それまでがなまじ素晴らしい主人公っぷりだっただけに余計にね…。

基本的にはカイムに依存しがちなヒロインを甘やかさずにしっかり支えようとするいい奴です。

ちなみに珍しく主人公にも声あり(フルヴォイス)になってます。名場面にも声があったからその分感情移入しやすかったですね。
某でぼの巣と違い、えちぃシーンでは声無しという配慮も実に素晴らしいw



音楽:9

全体的に落ち着いた曲が多いですが、牢獄に王城、戦闘シーンなど曲ごとに雰囲気作りに貢献していたと思います。

ただ雰囲気に溶け込んでいた分印象は薄い気がします。いや、十分レベルは高いんですよ?

「Schranz Shot」の最初の笛のような音が作中とマッチしていて印象的です。改めて聞くとRPGの戦闘BGMに普通に使えそうですね。。


そしてOP、「Asphodelus」は壮大で神秘的な名曲。クオリティの高いムービーも相まって素晴らしい出来になっています。
クリア後もOPは何度も再生してしまいます。

多少アニメーションが入るのもいいですね。そんなに凝ったアニメではないですが、使い方が非常にうまいと思います。




絵:10

キャラクターはいつものべっかん絵です。さすが安定してますね。
今作では男性キャラも比較的多いのですが、FAよりずっと上手くなっている気がします。

立ち絵もかなりパターンがあり飽きません。
リシアとコレットの衣装が特によかったです。

CGも要所要所で使われており、枚数的にも不足はなかったと思います。


そして何よりも背景がとにかくすごいです。

スラムのような牢獄や神秘的な教会、荘厳な王城などヨーロッパのような街並みが見事に描かれていました。
世界観に浸る上で背景の役割が非常に大きかったとおもいます。

かなりの枚数がありますが(約60枚)そのどれもがすごい出来で、ほんと妥協してない感じです。
時間や血による差分も描かれていたのもGood。

SD絵は久々になかったのは残念ですが、雰囲気を考えると正解ですね。




システム他:10

素晴らしい…の一言。

ワイド画面対応なんて当たり前。
かゆいところに手の届くコンフィグ。
そして業界初?マウスジェスチャーまでついてます。

何よりキーボード&マウス設定が神すぎる

好きなようにショートカットを設定できるんで本当に重宝しました。

もうこれを業界統一基準にしていいんじゃないかと思うくらいユーザーフレンドリーな設定です。

不満を言うとすれば若干スキップが遅いことぐらい?

そしてエフェクトもかなりのもの。
キャラとの距離によって立ち位置が変わったり、戦闘の剣戟シーンも迫力あります。




総評:90

オーガストが辿りついた新境地。

過去作品と比べて全然作風は違えども、根底にあるオーガストらしさは失ってないのが素晴らしいですね。

ブランドの路線変更は既存ユーザーからの支持を失いかけない大きな賭けだったと思いますが、大成功だったんじゃないでしょうか。

今までは正直べっかん絵に惹かれてましたが、これからは萌え一辺倒ではなくシナリオにも期待できそうです。

すでに1流ブランドとして君臨している8月の、さらなる進化に思わず期待してしまいます。


オススメ攻略順は道なりに進めていくことです。

各ヒロインの個別を見て、次章に進めていく形がいいと思います。


最初にエリス√行こうと思ってたのにフィオナばかり出てきて悩んだのはここだけの話


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